本編

9th Operation「対象者」

「この契約書を破棄する際は、必ずシュレッダーをかけるか、
 もしくは細かくちぎって捨ててください。
 っていう文章追加しといたほうがよくない?」



「そうだね。いちおうそう付け加えとこう。」



2人は1週間ほど、売買契約書の修正に力を入れていた。その時、突然・・・・



「うわ!だめだ!」



いきなりリオナが大声で叫んだ。



「ビックリしたー・・・どうしたの?リオナ」



「この契約書が後々になって命取りになるような気がする。
 こういうのは文章としてどこにも残しておいちゃいけないような・・・
 そんな気がしてきた。今さらだけど・・・徹はこのことどう思う?」



「・・・・・そう言われてみれば・・・確かに。
 この契約書の目的は大きく2つ。



 1つ目は対象者に分かりやすく説明して納得してもらいやすくすること。
 2つ目は完治した後に、他言する確率を極限まで0に近づけることができるってこと。



 でもこれは法的には何の拘束力もない。
 だって300万円払ってもらってキスして治します。
 この行為自体が法律的にどうなんだ?っていう問題もあるから。」



「でしょ?だからこの契約書って・・・
 実は必要ないんじゃない?口頭で説明するとか?」



「・・・・・分かった。まずこの話を持っていくときに、誰に最初に話すか?
 病気で苦しむ人の家族ってケースが多いんじゃないかな。



 だからその家族に説明する時に、まずこの契約書にその場で目を通してもらって、
 納得した人にはその後に日時とかの打ち合わせをその場ですればいいんじゃないかな。
 で、契約書はその場でこっちへ返してもらう。」



「うん、それなら・・・紙に残しておいても、
 それが原因で不特定多数の人にばれることはないわね。
 じゃあその線で、もう一回契約書の文面を見直さなきゃね。」



「そうだな。よしもうひと踏ん張りだ。」



2人でアイデアを出しながら、リオナには絶対に危険が及ばないように考えを深めていく。



「あと一番重要なのが、対象者をどう集めてくるか?だよね?」



「俺も今同じことを考えてた。それが一番のポイントかもしれないな。
 300万円出しても治したいほどの重い病気や怪我の家族を持つ者。
 そんな人たちは日本にたくさんいるはずだ。



 そんな人たちと出会うためには・・・どうすればいいんだろうか・・・
 リオナ分かるか?」



「・・・うーん・・・大き目の病院へ行って待合室でそれっぽい人を探して声をかける?
 興味ありそうな人があれば、詳しくは後日喫茶店かどこかでお話しましょう的な?



 ・・・これはダメだね。怪しすぎる。
 誰も聞いてくれないだろうし、病院側へ不審者がいるってちくられたらおしまいだもんね・・・



 他に方法は・・・うーん・・・大き目の病院のドクターか看護師さんへ話を持って行って・・・
 300万円出しても治したい病気を持っている患者さんかその家族を紹介してもらうとかかな?
 これ以外には思いつかないわ。」



「その場合、こっちサイドの考えに完全に賛同してくれる医療関係者を見つける必要が出てくる。
 もしくは・・・紹介者には300万円のうちの一部を紹介料として渡すか・・・だな。」



「うわー・・・なんかドロドロした世界になりそう・・・
 昼ドラみたいになんない?なんだか怖くなってきたよ・・・」



「昼ドラとは全然違うだろ・・・現実的に考えると・・・後者が正解かな。
 紹介料を渡す線がいいのかな。



 お金を受け取ってる手前、その医療関係者からは
 リオナの能力が外に漏れることはなさそうだし。」



「ちょっと待って・・・その医療関係者が受け取ったお金は、
 看護革命には使われないっていうことだよね?



 お小遣い稼ぎ的な感じだよね?
 そういうお金の流れを私は作りたくない。」



「でも・・・それ以外に対象者を見つけてくる方法がないぞ・・・
 ここは・・・あまり気持ちのよい部分ではないけれど・・・・
 目をつむるしかない所じゃないかな。」



「・・・うん・・・まあそうかな・・・
 あっ、ここでも契約書のようなものを作ればいいんじゃない?



 今回も実際に会って説明するときに、まずはその契約書を見せて、
 それから・・・って感じで。



 最後には私たちの手元に契約書返ってきて証拠は残らない。みたいな?」



「・・・そうだな・・・とりあえずは俺が契約書のたたき台をまた作ってみるわ。」



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<どんな病気・怪我も一瞬で治療する特殊能力を使用する対象者紹介契約書>



※この契約書は、ほんの一部の医療関係者の方のみにお見せしているものです。



はじめまして。私の自己紹介からさせていただきます。19歳の女です。
名前は「タカコ」(仮名)です。本名は訳あってあなたに名乗ることはできません。



私は子供のころから霊感がありました。中学生の時に臨死体験をし、
その際に自分の耳たぶに自分で5秒間キスをして、自分を夢の中で助けました。



大人になり、ふとしたことでその記憶がよみがえり、
実際に病気や怪我をした方の耳たぶに5秒間キスをしてみたところ、
その方の病気・怪我が一瞬で完治しました。



その後、この能力をもっと多くの方のために使いたいと考えるようになりました。
そうすることによって、患者さんから喜ばれるだけでなく、
医療関係者の皆様の負担を減らすこともできます。



さらには、今後高齢化が進む日本の中で危機的な状況をむかえると予想される
看護問題・医療問題の緩和につながると考えます。



しかし、極端な話になってしまいますが、
もしも日本中の患者さんにどんどんキスをしていって、
病気・怪我を私が治療してしまったら、今度は逆に、
医療に携わる人たちの仕事がなくなってしまい、
日本経済をめちゃくちゃにしてしまうことになりかねません。



よって、私が出した結論は、まずはごく少数の患者さん・もしくは患者さんの家族に、キスをし、
その対価として300万円をいただくことにしました。



いただいたお金は、全額、日本の看護業界・医療業界を
より良くしていくための「看護革命費用」として大切に使わせていただきます。



つまり、病気・怪我を治療できるのと同時に、
日本の医療をより良くするための社会貢献もできます。



そこで、医療に携わるあなたに、対象者を紹介していただけないか?
と思いまして、今日お会いし、この契約書を読んでもらっています。



1人の患者さんを紹介してもらえるごとに、30万円を紹介料としてお渡しします。



以下、今後の流れです。



1、病気・怪我を患われている方のうち、300万円を出しても治療したいと考えそうな方に、
  「実は特殊な能力を持っていて、300万円を払えば
   一瞬であなたの病気・怪我を治してしまう人がいる。紹介しましょうか?」
  と周りに誰もいないことを確認してから言ってください。病気の方のご家族でも構いません。



2ー1、半信半疑ながらも興味を持っていそうな方には、
    私の電話番号090-@@@@-@@@@に電話するようお伝えください。その際、
    「こういう話をしたということは、くれぐれも内密にお願いします。
     絶対に誰にも言わないでください。もし他に話がもれると、治療してもらえなくなります。」
    と患者さん(またはその家族)に伝えておいてください。
    ここで他言されるようなことがありますと、紹介料は一切お支払できませんし、
    あなたの職場での立場的にも非常にまずいことになりますよね。
    つまり、口の固そうな人・物わかりが良さそうな人を最初から選んで話を持っていくべきです。



2ー2、もし興味を持たれなかった場合には、
    「実は、そういう内容のセリフを主人公が言うマンガがあって。。。
     ふざけた内容っぽいですけど、医療現場のことが細かく描写されてて、
     今、私の周りの看護師さんとかドクターの間で流行ってるんですよ。」
    などと言って、煙に巻いてください。
    間違っても無理に勧誘するような行為はおやめください。



3、その後は、私とその患者さん(またはその家族)の直接のやり取りとなります。



4、直接話して、患者さん(またはその家族)が納得した場合にのみ取引をし、
  取引完了後に、私から電話をし、こちらが指定する場所にお越しください。
  紹介料30万円をお支払いします。



以下、注意事項です。



1、私が直接説明をした後、納得されず、取引をしない患者さん(またはその家族)
  ももちろんいらっしゃいます。そういうケースでは、紹介料は一切お支払できません。
  予めご了承ください。



2、同じ病院内に入院中の複数の患者さん(またはその家族)を紹介する場合、
  最低でも間隔を1か月間は開けてください。
  そして同じ病院内での紹介は最大でも5人までとします。



3、他に、この紹介ビジネスをしてくれそうな
  医療関係者のお知り合いがいらっしゃれば、紹介ください。
  その方が30万円獲得するたびに、あなたにも10万円をお支払いします。
  ただし、あなたが働いている病院と同じ病院内の関係者はNGとします。
  加えて、患者さんに話を持っていく場合同様、口の固そうな人・
  物わかりがよさそうな人を選んだほうがよいことは言うまでもありません。



4、患者さんへ話を持っていく場合・医療関係者のお知り合いに
  このお仕事の紹介をする場合以外は、
  このお仕事のことは絶対に他言しないようにしてください。
  ご家族・ご友人にも言わないように願います。
  もしも、他に漏れるようなことがある場合、あなたや私に危険が及ぶ場合があります。
  何より、あなたが今後、医療関係の仕事を続けることが困難になると推測できます。
  十分ご注意ください。

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「できたぞ!前半部分は、患者側に見せる内容とほぼ同じだけど、
 後半は全然違うから、しっかり目を通してみてくれ。」



「・・・・・2枚目の契約書だけあって・・・けっこう完璧じゃない?
 とりあえず明日もう一回冷静になって客観的にもう一度2人で見直してみようよ。」



「そうだな・・・時間を置いて見てみると、
 おかしい部分が浮かび上がって見えてくることもあるしな。」



「もうこんな時間!T大学とのコンパに遅れちゃう。じゃあね!」



「おいおい・・・こんな大事な時期に・・・コンパかよ・・・」



「私だってね。こんな契約書のことずっと考えてたくないの!
 普通の大学生活も送りたいんだから!
 同じ学科の友達との付き合いってのも大事なんだから!
 ってことで、さようならー!」



「俺もたまには・・・友達誘ってカラオケでも行ってくるかな・・・」



9th Operation「対象者」完  >>10th Operationへ続く




9th Operation「対象者」編集後記



大学時代は暇さえあれば麻雀をよくしていました。
当時は本当に楽しくて、麻雀の魅力に取りつかれていました。



ただ、今から思い返すと、麻雀していた大量な時間をもし他の何かに使っていたら・・・
どうなっていたんだろう???と考えることもあります。



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