本編

8th Operation「売買契約書」

「2人で億万長者になれるよ。」



「・・・は?・・・何言ってんの?」

リオナは徹の言っていることが全く理解できなかった。



「親父の件で、リオナの能力は本物だって証明できた。
 大怪我だけじゃない。風邪が治せて大怪我も治せたんだから、
 ガンとかすんごいやばい病気でも治せると思うんだよね。



 だから、怪我とか病気で苦しんでいる人とかその家族にコンタクトをとって、
 @百万円払ってくれたら治します。っていう商売が成り立つと思うんだよね。」



「バチン!」



リオナは思いっきり徹にビンタをした。
電車の中でこいつは無言でそんなこと考えてたのか、、、
と思うと猛烈に頭にきた。



「あなた何言ってるか分かってるの?!
 そんな人の弱みでお金儲けしようなんて!
 ばっかじゃないの?ガッカリしたわ・・・



 まだはっきりと方向性は定まってないけど、
 看護革命研究会なんていうサークルを大学入学と同時に作っちゃって・・・



 アホっぽいけど、そこまで行動力ある人なかなかいないよね・・・
 って、あなたのことちょっとだけ尊敬までしてたのに・・・
 ほんとガッカリ!」

「痛えな・・・話を最後まで聞けよ・・・続きがあるんだって。」



「何?お金儲けして海外へ一緒に逃亡しよう!とかそういうこと?ふざけないでよ!」



「違うってば。ええっと・・・まだ整理できてないけど・・・
 とりあえず電車の中で考えたことをそのまま言うよ。
 リオナのこのすごい能力を使わないのは機会損失。



 これは間違いないよね?
 リオナ自身もそういう気持ちはあるはず。だよね?」



「うん。そういう気持ちは・・・あるね。」



「かと言って、例えばだけど・・・
 片っ端から病気の人の耳たぶにキスしていくとする。
 もちろんお金なんてとらずにね。みんな喜ぶよね?
 一瞬で病気が治っていくんだから、そりゃー喜ぶ。

 で、喜ぶのは患者さんだけじゃない。
 看護師・医師の負担も減る。看護革命どころか医療革命にもつながる。



 だけど、キスしまくっていって、日本で病気や怪我の人が減りすぎると、
 今度は逆に、医者や看護師が今ほど必要なくなってしまう。

 病院も今ほど数が必要なくなるかもしれない。
 そうなれば、日本経済を大きく変えてしまうことになる。



 だから、現実的に考えて一番いいのが、
 まずはけっこうな額のお金を出しても病気を治したい!
 という人だけを治療していって、
 お金を貯めて、そのお金で看護革命を起こすんだ。」



リハビリテーション学科なのに、なぜ看護革命に興味があるのだろう??
リオナはいつも不思議に思っていた。



徹は優の入院中に随分と看護師にはお世話になっており、
色んなナースと話す機会があったのだそうだ。



患者さんの前では、皆いつも笑顔。
しかし、実際にはハードな仕事でしかも不規則勤務だし、
随分と疲れていることも多かった。



仲良くなって、話を聞けば聞くほど愚痴を聞いてるような感じになり・・・。
病院の内部事情を聞いたら、残業だらけでしかも人手が足りてないとか。



せっかくやる気で就いた仕事なのに、若いナース達が日々の忙しさに振り回され、
自分のしたい看護をするどころではなく、業務をこなすので精一杯。



さらには、スタッフ同士の人間関係にも疲れ、
心身共に疲れ果てて、仕事を辞めていくところも見てしまっていたのだ。



父がお世話になった看護師さん達に何かお礼がしたい!
そう思ったのがきっかけで、
全ての看護師が生き生きと楽しんで仕事ができるような
看護業界にしたいと思ったのが、看護革命なのだ。




「看護革命って?具体的に何するの?」



「それを今、2人して、看護革命研究会で調べて見つけようとしているところじゃないか。
 やることが決まった時に、お金がある程度あれば、選択肢の幅も広がってくると思うんだよね。
 医療関係の某所に寄付をするというのもありだと思うし・・・」



「ちょっと待って・・・2人で億万長者になれるよ発言の説明に全然なってないんだけど・・・」



徹の発言の裏には、今の徹の家庭の事情もあった。



優の事故後は、家計に安定した収入がなくなり、
母はパートをして生計の足しにしていたものの、
徹の大学入学にもお金はかかり、奨学金を受けはしても、
それだけでは足りないので徹自身もアルバイト生活をして、
金銭面での苦労をしていたのだった。



「あれは・・・ちょっと勢い余って言葉が出ちゃっただけ。
 人間誰でもお金がいっぱい欲しいっていう願望はあるでしょ?
 それで・・・いろいろ考えてたら・・・



 でも冷静になったら、それは違うことに気づいた。
 お金をもらって耳たぶにキスしていっても、
 そのお金は看護業界・医療業界を良くするために使うべきだ。
 そういうお金を自分のために使っても絶対幸せにはなれない。」

「で・・・目は覚めたの?覚めてないんならもう一回ビンタしてあげるわよ?」

「・・・もう・・・覚めたよ。で、リオナは俺のこの考えどう思う?」

「確かにあんたの言うことは理にかなってると思うよ。
 流れの中で誰一人不幸にはならないから。



 ただ、、、この流れでいくとして、、、一番大事なのが・・・
 私の能力を一般的には知られてはいけないってことね。
 マスコミにかぎつけられでもしたら、私・・・怖い・・・」



「そう。それが一番大事。だからこそ、お金をもらって治療するんだよ。
 その時に契約書のようなものを交わして、絶対に他言しないことを約束してもらう。

 こっちもお金をこういう風に使いますっていう使い道を明記する。
 例えばだけどこういう仕掛けが必要になってくるね。」



「うーん・・・なんか・・・危険な匂いがするんだけど・・・
 1つ間違ったら・・・命狙われる・・・とか、
 そういうことになんない?やっぱりやめとかない?こんなこと。」

「確かに1つ間違えば危険かもしれない。
 だけど順を追ってちゃんと準備すれば大丈夫だ。

 これで看護師不足問題をはじめとした日本の看護業界を変えることができれば、
 俺らが大学を卒業して看護とかリハビリの仕事をする頃には、
 絶対に看護業界・医療業界を変えられる。
 これは大きな社会貢献だよリオナ。」

「・・・ちょっと冷静になってみない?
 今日はこれ以上脳みそ使うの無理っぽいよ私。
 パンクしそうだわ・・・また明日続き話そうよ。」

「だね。俺もちょっと熱くなりすぎてる部分があるかもしれない。
 一晩ゆっくり寝て、冷静に考えてみるよ。
 で、、、今日はこのままここに一緒に泊まるんだよね?」



「・・・ホントにもう一回ビンタされたいみたいね。今度は思いっきりいくわよ・・・」



「冗談だって。帰ろう。てか、さっきの思いっきりじゃなかったんだ・・・」



次の日、大学の授業が終わるとすぐに看護革命研究会603号室へ向かうリオナ。
すでに徹が来ていて、パソコン作業中のようだ



「できた!」



印刷をしてその紙をリオナに渡す徹はとても嬉しそうで、
目がキラキラとしている。

新しいおもちゃを買ってもらった時の子供のような純粋な目をしている。


-----------------------------------------------------------------------------------------------------------

<どんな病気・怪我も一瞬で治療する特殊能力の売買契約書>


はじめまして。私の自己紹介からさせていただきます。
19歳の女です。名前は「タカコ」(仮名)です。
本名は訳あってあなたに名乗ることはできません。

この契約書を手にとられているということは、
あなたは何らかの病気・怪我を治したい状況におられるのだと思います。

私は子供のころから霊感がありました。
中学生の時に臨死体験をし、その際に自分の耳たぶに
自分で5秒間キスをして、自分を夢の中で助けました。



大人になり、ふとしたことでその記憶がよみがえり、
実際に病気や怪我をした方の耳たぶに5秒間キスをしてみたところ、
その方の病気・怪我が一瞬で完治しました。

その後、この能力をもっと多くの方のために使いたいと考えるようになりました。
そうすることによって、患者さんから喜ばれるだけでなく、
今後高齢化が進む日本の中で危機的な状況をむかえると予想される
看護問題・医療問題の緩和につながると考えます。



しかし、極端な話になってしまいますが、
もしも日本中の患者さんにどんどんキスをしていって、
病気・怪我を私が治療してしまったら、
今度は逆に、医療に携わる人たちの仕事がなくなってしまい、
日本経済をめちゃくちゃにしてしまうことになりかねません。

よって、私が出した結論は、一部の人のみに、このような契約書を見せ、
キスの対価として300万円をいただきます。
いただいたお金は、全額、日本の看護業界・医療業界を
より良くしていくための「看護革命費用」として大切に使わせていただきます。

つまり、あなたの病気・怪我を治療できるのと同時に、
日本の医療をより良くするための社会貢献もできるとお考えください。



以下、売買の詳細な流れです。

1、この契約書の内容に納得ができた場合のみ、090-@@@@-@@@@までお電話ください。

2、電話にて、病名・病気の状況・入院している病院・キス希望日時をお聞きします。



3、お見舞いを装い、指定日時に病室までお伺いします。
この日時までに病室に300万円のご用意をお願いします。
ご家族の方に、お見舞い品とまぎれて持ってきてもらうのが一番安全でしょう。
医師・看護師・周りの他の患者さんに現金を見られないよう十分注意ください。

4、到着しましたら、私は自分の耳たぶをチョンチョンと触ります。
それが私であることの合図です。
現金300万円を受け取った後すぐに、あなたの耳たぶに5秒間キスをします。

5、あなたの病気が完治します。驚かれると思いますが、絶対に声を出さないよう願います。

6、私はその後はすぐに帰ります。
翌日以降に、担当医師に病気・怪我がなぜか治っているっぽいとお伝えしてください。
この際、私の存在・能力を、医師や看護師に
絶対に言わないようにするとともに、悟られないように配慮ください。
当日に医師や看護師のほうから、完治に気づいてしまった場合にも、
完治に驚いているフリをするなどして、ごまかしてください。



7、完治後に、上記約束を守れなかった場合、
もしくは、その場で300万円返還を求めたり、騒いだり、といった行為をもしもされた場合、
キスの効果を私は自分の意志で取り消すことができます。
よって、そのような行為をされてもお互いに何も良いことはありません。

8、退院後も、私の存在・能力のことは、絶対に他言しないようにしてください。
ご家族・ご友人にも絶対に言わないでください。
もしこの約束を破られることがありますと、
今後の看護業界・医療業界をより良くしていくために、
あなたからいただいた300万円が無駄になってしまう可能性もあります。
プラスして、もし外部に漏れた場合、
私とあなたの身に何らかの圧力がかかり、危険が及んでしまう可能性も否定できません。
この約束を守ることに少しでも自信がない場合、
この契約書は見なかったことにして破棄してください。

以上。



納得できない部分が少しでもある場合、この契約書はすみやかに破棄願います。

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------



1日でここまで考えをめぐらして形にしてしまう徹を少し見直したリオナ。
と同時に、ひっかかる部分が何か所かあったのでツッコミを入れることにした。

「まずさ・・・『「看護革命費用」として大切に使わせていただきます。』の部分だけど・・・
 これじゃ何に使うか具体的に全く分からないよね。」

「うん。だってこっちもまだ決めてないんだもん。
 だから最後の方に、納得できない場合は破棄願います。って書いといた。
 これでいいんじゃないかな。立場的には絶対的にこっちが有利なんだから。。。

 変に下手に出る必要もないかと思って。
 逆に下手に出る物言いをすれば足元すくわれるような・・・
 そんな感じもしたからさ。契約書ってこんなもんでしょ。」

「うーん・・・まあそこはいいわ。
 一番ひっかかったのが・・・300万円受け取ってキスする場所。
 これだと入院している人に限られるわよね。
 病院でっていうのは・・・見つかるリスク大きすぎない?
 それならいっそのこと、自宅療養している人にターゲットを絞ったほうがいいんじゃないかな?」

「いや、それは逆だよリオナ。
 自宅にリオナ1人で伺う。そんな危険なことはないよ。
 キスして完治した患者やその家族が能力を目の当たりにして、変な気を起こす可能性もある。
 『知り合いに重病の人がいるから、その人も治して!』みたいな。

 能力のこと根掘り葉掘り聞いてきたりね。
 事前に誰かを家の中に忍ばせておかれるリスクもある。

 だから、300万円を受け取ってキスをする現場は絶対的に公の場である必要がある。
 なおかつ、人には見られてはいけない。
 個室の病室もしくは大部屋でもカーテンで仕切って目隠しできる。
 その状況は、まさに現場には最適なんだよ。」



「・・・あんたさ・・・なんか必死だよね・・・妙に楽しそうだし・・・
 本当に看護業界を良くするのが目的なの?
 実は・・・お金儲けしようとか思ってないよね?」

「だから昨日も言ったように、最初はちょっとだけお金に目がくらみそうになってたよ・・・
 だけど・・・今はそういう感情は全くない。
 全てはあの入学式の日にリオナとぶつかったところからこの看護革命は始まってたんだよ。
 これから忙しくなるよ。二人三脚で頑張っていこう。」

「うん、分かった。」



リオナは分かったといいつつ、本当に看護革命なんて起こせるのか不安になってきていた。
徹のこともまだ100%信用できてはいなかった。



「2人で億万長者になれるよ。」

リオナの頭には昨日徹が発したこの言葉がこだまのようにまだ鳴り響いていた。

8th Operation「売買契約書」完  9th Operationへ続く

8th Operation「売買契約書」編集後記


今回、少しぐだぐだ書きすぎた気はします・・・
本人もそのことには気づいているので・・・
どうかお許しを。。。


<<7th Operation  >>9th Operation