本編

5th Operation 「最初の春の選択」

「テニスサークルでーす。よろしくお願いしまーす。」



「今度の土曜日、新歓コンパがあるので、よかったら来てくださーい。」



「お姉さん!イベントサークル入りませんかー?
 いろんな大学の人たちが集まって作ったサークルだから。
 友達増えて楽しいよ!」



1枚受け取ったら最後。
公園でえさを持っている人の周りにハトが集まってくるかのように、
どんどん人が集まってきて両手は一瞬でビラの山と化す。



入学式の会場へは無事たどり着けるのだろうか?



平和大学看護学科へ無事合格し、晴れて大学生となったリオナ。
夢にまで見たキャンパスライフが始まる。
ワクワクが止まらない状態で、リオナは入学式会場へ向かっていた。



「きゃっ!バタン!」



サークル勧誘を避けるように早足で歩いていたリオナは、
人と思いっきりぶつかってしまった。



手に持っていたサークルのビラたち約30枚が宙に舞った。
花火みたいだ。



「ごめん!大丈夫?怪我してない?」



「あっはい!すいません!」



え?こんなところに芸能人の向田進(むこうだすすむ)が?
横顔がリオナの大好きな向田進にソックリなその男の手には大量のビラが。
彼もまたサークル勧誘のために、この場に来ているようだ。



「ごめんねー。今のは僕が悪いよ。」



「いえいえ。私こそ、ちゃんと前を向いて歩いていなかったので。すいませんでした!」



「いっぱいビラ持ってるねー(笑)ついでに僕のサークルのビラも。はい。どうぞ。」



と言い終わると同時にリオナにウインクをしてきた。
今時ウインクって・・・チャライ。非常にチャライ。遊んでそう。
まあイケメンだし女の子はほっとかないだろうな。



だからどうせありがちなテニスサークルとみせて
実はテニスを口実に飲み会ばっかしてるような
合コンサークルの人間なんだろう。と思った。



時間ぎりぎり。ようやく入学式会場に到着。
まさに今、式典が始まろうというところであった。



お偉いさんの長い話が続く。
「看護とはこういうものだ。うんたらかんたら・・・」
という看護論や自身の看護観までもが繰り広げられている。



少々退屈に感じたので、手にいっぱいのサークル勧誘のビラを1枚ずつ眺めていた。
どこのサークルも4月いっぱいは毎週末に新歓コンパがあるようだ。



そういえば、あの向田進似がくれたビラはどれだったかな?あー・・・
確かこれだったな・・・どうせチャライサークルなんだろう・・・



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ご入学おめでとうございます。
新入生の皆さんへ「看護革命研究会」へのお誘い



今の日本の看護業界には問題点がたくさんあります。



慢性的な看護師不足から起こる過重労働。
不規則勤務や長時間労働による心身の疲弊。
高い離職率に伴って起こる、潜在看護師の増加。
育児中の看護師への不十分な子育て支援。
業務量に見合わない低賃金。
医療ミスに対する訴訟問題。



「看護革命研究会」では、
看護業界の多くの問題点を解決していくためにどうすれば良いのかを考え、
実行し、日本の看護業界に革命を起こすことを目的としています。



最終的に日本中の看護師全員が、輝きながら楽しく
看護のお仕事ができる世の中にしたいです。



ご興味のある方は、大学からもほど近い、以下の場所へ気軽にお越しください。
詳細をお話しいたします。
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怪しい。怪しすぎる。チャラくはないが怪しすぎる。
第一、学生のサークルがなんで看護業界を変えようとしているのか。



看護の勉強をするために大学に入っているのに、なんでこの人たちは先回りをして、
もうすでに実際に働いている看護師さん達のことを考えているのかも分からない。
チャライサークルのただの悪ふざけなのかな?とも思ったりする。



確かに、今の日本は看護師の資格を持っている人は増えてるけど、
身体的にも精神的にも疲れ果てて辞めていく人が多いから、
実際に現場で働く看護師は(不足)足りてないみたいだけど・・・。



あとはどんどん看護師に課される仕事は増えているし多様化しているのに
医師に比べてお給料が少なすぎるとか・・・。



でも、これから看護について学ぼうとしているのに、
そこまで先回りして考えられない。



「看護革命研究会」というのは、きっとよほどの変わり者が作ったサークルなのだろう。
しかし、そのサークルに、あのチャラそうな向田進似の男が在籍しているのも理解できない。



入学式から1週間後。
今日から大学の授業が始まる。いよいよ看護師へ向けての第一歩が始まる。
リオナはワクワクしていた。



初日ということもあり、午前中で授業はおしまい。
午後は特に予定はなかった。
そしてリオナはまだ「看護革命研究会」のことが気になっていた。



気づけば、ビラに書かれていた地図の場所まで来ていた。
少し古めのマンション。



大学から徒歩5分ということもあり、ほとんどが地方から出てきた学生が住んでいるのだろう。
その最上階6階の一番奥「603号室」が「看護革命研究会」の活動場所らしい。



こんなマンションの一室からどんな革命が起こせるんだ。
笑っちゃうわ。




リオナはここへ来たのが時間の無駄のように感じられてきた。
ちょっと話を聞くだけ聞いてすぐに帰ろうと思った。
おそるおそるインターホンを鳴らしてみる。



中から顔を出したのは、入学式でぶつかった向田進似の男だった。



「あっ。入学式で思いっきりぶつかった子だよねー。来てくれたんだー?」



「こんにちは。ちょっとビラの内容が気になって。
 気軽に来ていいよって書かれていたので、話だけでも聞いてみたくて来ました。」



「はい、どうぞー。」



間取りは2K。玄関を入ると左手に奥まったキッチンがあり、右手にユニットバス。
その奥に2部屋ある。



部屋に入ると、段ボールが20個ほど無造作に置かれている。
家具は部屋の真ん中に来客用?の机と、あとは本棚とパソコン用のデスクがあるのみだ。



「引っ越してきたばかりでまだ整理終わってなくて。散らかってるけど気にしないでね。」



「あっそうなんですか。前は他の場所でやってたサークルなんですね。」



「いや、このサークル1週間前に作ったばっかだから。
 ほら、君と入学式にぶつかったでしょ?あの日がこのサークルが誕生した日。」



「えええ!こんなの詐欺じゃないですか?」



「何言ってんの?『10年前からある由緒正しき老舗サークルで安心です。』なんてビラに書いてたっけ?」



確かに。サークルのビラを何枚も見たが、もう何年も前から続いているサークルばかりだ、
と先入観で勝手に決めつけていた。
意外と今年から始めるというサークルも多いのかもしれない。



「いや、書いてなかったですけど・・・ちなみに・・・
 このサークルは何人で構成されてるんですか?」



「今は2人だね。俺と君。」


「えええ?!あなた・・・1人でこのサークル作ったんですか?
 ってか、私まだ入ってないし!」



「あ。『まだ』って言ったね。いずれは入るつもりじゃん。」



「・・・・・・そんなことはどうでもいいんですよ!
 私は看護革命研究会のことが気になって話を聞きに来ただけです。
 説明聞いたらすぐに帰りますので。
 で、あなた、学生なのになんで日本の看護業界を変えようとしてるんですか?」



「なんでって聞かれても・・・当然のことじゃない?
 今のままの看護業界が続いていったら、
 看護師になってもつらい日々が待ってるだけだよ。
 逆に聞きたいね。なんで日本の看護業界を変えようと誰も声をあげないのか。」



「確かに私も今の日本の看護業界に問題が多いのは知っています。
 だけど、私は今日からまさに看護の勉強をしようと、
 大学に通い始めたところです。



 まだ看護師になれるかどうかも分からないのに、
 日本の看護業界の問題までは考えられないです。
 私にはまだ入るには早いサークルのようです。失礼します。」



「ちょっと待って。こういうこと考えるのに早いとか遅いとかあるのかな?
 自分の目指す将来の業界の問題点を解決しようとするのは、
 当たり前のことなんじゃないかな?



 俺はそう思うけど・・・
 俺だって今日からリハビリの勉強始めたばかりだし。」



「え?あなた何年生なんですか?」



「俺はリハビリテーション学科の1年生。名前は鷲見徹(すみとおる)。」



「は?!あなた1年生だったの?!入学式の時ビラ配ってたよね?1年生なのに?入学式は?」



「あーあんなの出てないよ。どうせおえらいさんの退屈な話が続くだけでしょ?」



「確かに・・・そうだけど・・・聞いたことないわ。
 入学式の日にその大学に入学する新入生がサークル作ってビラまでまいてるなんて。
 ってか、今まで私、あんたに敬語で話してたんだけど!」



「そうそう。タメなのに敬語で話してくれるなんて礼儀正しい子だなーって思ってたよ。」



リオナはだんだん腹が立ってきた。



「誰だって上級生だと思うわよ!」



「てことでさ、これからもよろしくね。一緒に日本の看護業界に革命を起こそうよ!」



「もう!あんたと話してると頭がおかしくなりそうだわ!帰る!」



「あっ待ってよ。俺だけ名乗ってそっちは名乗らないって、おかしくない?」



「私はリオナ。看護学科の1年生!」



リオナは看護革命研究会の部室?をあとにし、駅へ向かう。



平和大学の最寄り駅「平和大学前駅」までは徒歩10分ほど。
いわゆる学生街になっていて、
コンビニ・定食屋・カラオケ屋・居酒屋・
ゲームセンター・ネットカフェなどが立ち並んでいる。



まだ肌寒さが残る4月上旬の午後2時。
楽しそうに話しながらすれ違う学生たちの顔を見ながら、リオナは迷っていた。



夢にまで見ていた普通に楽しいキャンパスライフを送るか。



それとも・・・



5th Operation 「最初の春の選択」完  >>6th Operationへ続く



5th Operation 「最初の春の選択」編集後記


自分の大学生活を思い出しながら、若干ノンフィクション部分も入れつつ書いてみました。


今でも鮮明に思い出すことがあります。あの楽しかった日々を。
何をしていても猛烈に楽しかった。


ただ1つどうしても思い出せないのが「毎日何を考えて生きていたのか?」ということ。


たぶんあの頃は何にも考えずに生きていたんだろうな。
ただそれで毎日が幸せだったのです。


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