本編

4th Operation 「最後の夏の夢」

8月下旬のとある日曜日。
猛暑と呼ばれたその夏の中でも、ひときわ熱く、
雲一つない日曜日の午前11時。



海岸線に車を走らせ、海水浴へ向かう幸せそうな家族。
運転席には父親。後部座席には母親と中学3年のリオナ。



中学校最後の夏休みも、あと1週間ほどで終わってしまう。
宿題は何一つ手を付けていない。



今日の海水浴が終わり、家に帰れば、明日から1週間は宿題地獄だ。
そんなモヤモヤした気分と、海水浴を思いっきり楽しんでやる、
という気持ちが入り乱れ、複雑な表情をリオナは車の中で浮かべている。



そんな表情がパッと明るくなる瞬間があった。



「あっ!あと500メートルくらい行くと左側にお墓が見えてくるよ!」



「もう、リオナ。それやめなさいって言ってるでしょ!」



「ごめぇん。。。あっほら、やっぱりあった!」



「やめなさい!」



リオナは小学生の頃から、自分の近くにあるお墓やお寺・神社の場所などを、
目で見える前になんとなく言い当てることができていた。



その他にも、第6感を感じさせる発言をすることも多かった。
いわゆる「霊感がある」子供だった。



母親はこれをあまり良く思っておらず、「やめなさい!」といつも言っていた。
これもこの子の個性なんだ、大切にしてあげたい、という気持ちもあったが、
学校で仲間外れになっていじめられるのではないか?という心配のほうが大きかった。



まもなく、海水浴場到着。はしゃぐリオナ。
今年の夏はこれがおそらく最初で最後の海だ。
嫌でもテンションは上がる。



到着してしばらくは、リオナは海で泳ぎ、
父親と母親は砂浜のパラソルでごろごろ昼寝をして過ごしていた。



その後、泳ぎ疲れたリオナも昼寝をした。



頭から血を流して砂浜に寝そべるリオナ。
周りには海水浴へ来ている人々が心配そうに集まっている。



その群衆の中にもう一人のリオナもいた。
血を流す自分を見つめていると、いつものように第6感が働いた。
無意識の中で誰かが私にささやいた。



「耳たぶに5秒間キスを。」



条件反射のように、群衆の中から身を乗り出し、
倒れている自分の耳たぶに5秒間キスをした。



「リオナ!リオナ!」



叫ぶ母親と父親の声で昼寝から目が覚めた。
周りには多くの人たちが自分のことを心配そうに見つめている。



「リオナ!頭は大丈夫?大丈夫なの?!」



頭を触ってみると手が血まみれになった。
でも全然痛くない。痛くもかゆくもない。



間もなく救急車到着。



どこも痛くないのに救急車で病院へ運ばれた。
医師は診察をして呆然としていた。



それもそのはず。
これだけ出血しているのに、傷口がどこにも見当たらないからだ。



傷がなくても、何かしらの異常があったに違いないと、血をふき取った後、
医師たちはCTやレントゲン、脳波までも検査をしてみたが異常は認められず・・・
そのまま帰宅することとなった。



家に帰って母親から聞くところによると、リオナが泳いでいるところに、
操作不能になり暴走していたジェットスキーが突撃してきたようだ。
すぐに海を監視しているライフセーバーに助けられ、砂浜まで運ばれた。



そこで自分の耳たぶに自分でキスをして一命をとりとめた?
昼寝してたんじゃなかったんだ。



中学3年のリオナはこの日、自分の身に起きたことが
全く理解できず、ただ呆然としていた。



母親は毎日「リオナ!頭痛くない?どこか痛いところない?」と聞いてくるし。



その出来事の記憶を振り払うかのように、夏休みの残り1週間、
リオナは普段は絶対に自分からやろうとはしない宿題を猛スピードで片づけ始め、
8月29日の夜には全て終わらせたのだった。



「お母さん、宿題全部終わったよ。」



「リオナ!本当に頭大丈夫???」



「ちょっと!失礼しちゃうわ!」



「いや、そういう意味じゃなくて。。。」



「もう!お母さんったら!」



ようやくこの家族にも笑顔が戻りつつあった。



夏休み残り2日。
思いっきり遊ぼうと、友達を誘ってみるが、
みんな宿題をため込んでいて遊び相手はいなかった。



しかたなく録りためておいたテレビドラマを1人で見て過ごすことにした。
ドラマの内容が全く頭に入ってこない。
リオナの頭の中は再びあの海の日の記憶でいっぱいになっていた。



リオナにとって忘れられない夏。
中学校生活最後の夏は、こうして終わっていった。



4th Operation 「最後の夏の夢」完 >>5th Operationへ続く



4th Operation 「最後の夏の夢」編集後記


小学校4年生の時、家族で海へ行った。
僕は泳げない子供だったから、波打ち際に父親と寝そべってぱちゃぱちゃと遊んでいた。


その後、僕は財布をなくしたことに気づいた。
父親と一緒になって一生懸命探したことを鮮明に覚えている。


小学校4年生の時の記憶。普段何をして過ごしていたのか?
正直全然思い出せない。


ただ、その日のことは鮮明に覚えている。
海にはそんな力があるのかな?


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