本編

2nd Operation 「小五郎監督」

先輩ナース玲子は猛烈に怒っていた。リオナが無断欠勤したのだ。



電話してもずっと留守電。こんな日に限って忙しく、
リオナの分の仕事もやらなくてはいけない看護師たちで
ナースステーションは一日中、戦場と化していた。



「お疲れさまでーす♪」



夕方になってリオナが現れた。玲子の怒号が病棟に響き渡る。



「お疲れさまでーす♪じゃないわよ!今頃何しに来たの?!」



「え?だって私今日夜勤ですよ?」



「何言ってるの?リオナ!あなた今日は日勤!夜勤は明日よ!」



「え?・・・あっ!!!間違えてました!!!すいません!せんぱぁい!」



「バカ!今日一日どれだけ他のスタッフに迷惑かけたか分かってるの?
 私だけじゃなくて、みんなに謝ってきなさい!」



「すいませーん・・・・・」



おっちょこちょいなリオナ。
仕事でミスをすることはあれど、勤務時間を間違えたのは初めてのことだった。
その日はそのまま夜勤をすることになった。



「はぁ。やっちゃったなー。・・・・・でも、くよくよしてても仕方がない!
 もう今後二度と勤務時間を間違えないように注意したらいい!
 さあ気分を切り替えて!仕事しよ!」



相変わらず切り替えの早いリオナ。
この性格、いいのか悪いのか微妙である。



その日の深夜0時。
廊下を歩いていたリオナは、どこからともなくうめき声のような声を聞く。



「うう。。。ぐすん。。。ううううう。。。」



誰かが泣いているようだ。消灯時間はとっくに過ぎている。
その泣き声は、「本田小五郎」の部屋からのものだった。
部屋をのぞいてみることにしたリオナ。



「小五郎さーん。リオナです。どこか痛みますか?大丈夫ですか?」



「リオナちゃんか・・・さっきから涙が止まらんくなってのぅ」



小五郎は末期のガン患者。もう治療方法はなく、延命治療をほどこされている。
先がもう長くはないことは本人も知っている。



だが、小五郎は普段はいつも明るく、
看護師たちを笑わせてくれるようなムードメーカー的な存在だった。



そんな小五郎が泣いている。その普段とのギャップに、まずリオナは驚いた。



「小五郎さん。私でよければお話聞きますよ。
 私に話したところで何の解決にもならないかもしれないけれど。」



「確かにそうじゃな。新人のリオナちゃんに話しても、何も解決せんわ。」



「もう!じゃあ聞きませんよ!」



「嘘じゃ。嘘じゃ。聞いてくれ。」



小五郎の顔にいつもの笑みがこぼれ、リオナは少しほっとした。



「リオナちゃん。わしはもうすぐ死ぬ。そんなことは分かっておる。
 死ぬのも怖くない。こんなに長生きさせてもらったんだからのぅ。
 孫の顔も見れたし満足じゃ。ただ・・・



 昔何かの本に書いてあったのか?
 それとも誰かから聞いた話だったのかは忘れたが・・・
 男が死ぬ直前に何を後悔するのか?というデータがあって。



 一番後悔するのが、
 『もっと挑戦しておけばよかった。やりたいことを思う存分やっておけば良かった。』
 ということだそうだ。



 わしも今になってそんな心境になってきてのぅ。
 涙が止まらんくなったというわけじゃ。」



「そうだったんですね・・・」



「はぁ・・・ううううう・・・・また涙が出てきたわい・・・
 何をビビってたんだか・・・思いっきりやっておけばよかった・・・
 悔しいよ・・・ううう。。。」



「ちなみに・・・小五郎さんが思いっきりやっておけばよかったことって何ですか?
 いいづらくなければ・・・教えてもらえないですか?」



「リオナちゃん・・・誰にも言ってはダメだぞ。
 わしは、、、若いころから映画監督になりたいと思っておった。



 だが、飯を食うために食品メーカーに就職し、そこで定年まで必死に働いた。
 仕事は楽しかった。やりがいもあった。
 仕事をとおして一生の仲間もたくさんできたしのぅ。



 定年退職してからは、婆さんと旅行へ行ったり、趣味のゴルフや庭いじりをしたり、
 たまにパチンコをしたり、孫と遊んだり。まあ楽しい日々を送っておった。
 


 でももうすぐ死ぬと分かって、何で映画を作ろうとしていなかったのか?
 そのことだけが頭の中をグルグル回るようになってきてのぅ。
 涙がさっきから止まらんのじゃ。」



「映画は私も好きですよ。夜勤終わりの朝にね、
 レンタルしてきた映画を観ながらうとうと眠りにつくのが最高に幸せな時間♪



 お金出してレンタルして、1時間くらい観ると眠くなってくるの。
 ここからこの映画おもしろくなってくるのにぃ。
 ってところで寝ちゃうのが最高に幸せなんですよ。」



「その感覚はわしにはよく分からんが・・・とにかく映画は好きってことが言いたいのじゃな?」



「うん、そう・・・ごめんなさい!私ちょっと変わってるんです・・・」



「サラリーマンしながらでも、時間を見つけて映画は作れた。
 自主制作でも何でもいいからやってみれば良かった。



 定年してからも体は言うことを聞いていたんだから、映画を作ることはできた。
 でも自分の中で、所詮自分には映画なんて作る能力はないって思い込んでいた気がするのじゃ。



 極端な話、今からでも体さえ言うことを聞いてくれれば作れる。
 今はいんたーねっとが普及しているから、そこで公開して多くの人に見てもらうこともできる。
 こんな簡単なことに、死ぬ間際になって気づくとはな・・・



 リオナちゃん・・・あんたもやりたいことがあったら絶対に思いっきりやっておくべきじゃぞ。
 これは、わしからの遺言じゃ。」



「何言ってるんですかー小五郎さんったら。」



「あー・・・リオナちゃんに話を聞いてもらったらなんだかスッキリしたぞい。
 今日は気持ちよく眠れそうだ。おやすみ。」



「よかったです。おやすみなさい。小五郎さん。」



リオナは病室のドアを開け、廊下に出ようとしたが、、、
出ないでそのままドアをもう一度閉めた。



「ん?リオナちゃん・・・忘れ物か?」



「はい。忘れ物です。小五郎さん、5秒だけ目を閉じててくれますか?」



「なんじゃ?チューでもしてくれるのか?」



「いいから、、、目を閉じててください。」



リオナは小五郎の耳たぶに5秒間キスをした。



「うはは。耳にチューか。若いもんの間ではこういうのが流行って・・・・・
 ん?なんだか体が軽いぞ。」



「小五郎さんの病気。私が治してあげました。
 私ね。耳たぶに5秒間キスをすると、、、
 その人の病気とか怪我を一瞬で治せる能力を持ってるんです。」



「・・・・これは夢か?・・・・・」



「いいえ。現実です。小五郎さんのガンはもう治ってるわ。」



「そのようじゃ。自分の体のことは自分で一番分かっておるつもりじゃ。
 完全に健康な体になっておるのは、分かる。
 リオナちゃん・・・なんとお礼を言ってよいやら・・・言葉が見つからぬ。。。」



「小五郎さん1つ約束して欲しいことがあるんです。
 私にこういう能力があって、私が小五郎さんのガンを治したことは誰にも言わないで。
 絶対に言わないで。



 家族の方にも言わないって約束してください。
 もし他の人がこの能力のことを知ってしまったら・・・
 いろいろと面倒なことになっちゃうの。よろしくお願いしますね。」



「・・・まだわしも混乱していて状況がよく飲み込めておらぬが、、、
 わしもバカではない。その約束は必ず守る。」



「ありがとうございます。あともう一つ約束よ。明日から早速映画制作を始めてね。」



「・・・ううう・・・ありがとう・・・・・そっちの約束も必ず守る!
 映画が完成したら、リオナちゃんに一番最初に見せに来るぞい!」



「楽しみに待ってます♪」



前回、昌夫の大怪我を治してから1週間後に小五郎のガンを治したリオナ。
1つの病院でありえないことが短期間に2度続いた。



明らかに不自然な状況だ。
このことの重大さに、この時のリオナはまだ気づいていないのであった。



2nd Operation 「小五郎監督」完  >>3rd Operationへ続く



2nd Operation 「小五郎監督」 編集後記


私自信、映画が大好きで、映画を作ってみたいという気持ちはずっと持っています。
思っているだけじゃ、小五郎と同じ。後悔して終わりですね。


まずは行動。
「自主制作映画 作り方」でググることから始めてみます。


<<1st Operation   >>3rd Operation