本編

1st Operation 「男の約束」

「バターン!ガンガラガッシャーン!!!」



「はぁ。。。もーリオナ!毎日毎日あなたは。。。ちゃんと前向いて運んでよ!」



「すいませーん。玲子せんぱぁい。。。」



リオナはこの「平和病院」へ来て2年目の新人ナース。
もう2年目だから通常は「新人」とは呼ばれないが、
玲子をはじめ、病院内のナース・ドクター、患者さん、
周りの人間全てがまだまだ「新人」と呼んでいる。



それもそのはず。
歩くときはよそ見ばかりして、前から来た人とぶつかって、
持っている物を落とすなんてことは日常茶飯事。



ナースステーションで薬品や患者さんの情報を記録したメモなど
大事な物をなくしてしまうこともしょっちゅう。



「おっちょこちょい」という言葉はリオナのためにできた言葉なんじゃないか?
っていうほど、「おっちょこちょい」という言葉が似合う女だ。



ただ、リオナの生まれ持った天真爛漫さからだろうか?
それとも、おっちょこちょいなのだが、リオナ自身は
いたってまじめに仕事に取り組んでいることが周りに伝わっているからであろうか?



先輩ナースやドクターに怒られることは毎日だが、
みんなどこか温かくリオナのことを見守っている。
そんな雰囲気がリオナの周りには漂っていた。



仕事のミスを怒られ、落ち込んでいる時。



「リオナ!あんた明るさだけが取り柄なんだから!
 落ち込んでる顔だけは見せないようにしてよね!」



「あっはい!すいません!玲子先輩!そうですよね!
 悪い頭でいろいろ考えても仕方がないですもんね!
 明るく前向きに!これからもがんばりまーす!」



「あら、リオナは立ち直り早いわねー。。。
 ほら、検温の時間よ!いってらっしゃい!」



「はぁーい!」



看護師という仕事は、ちょっとした見落としや失敗が
患者さんの命に関わることもある。



真面目で一生懸命な性格なナースほど精神的に追い込まれて、
バーンアウトすることも多い。



リオナは真面目で一生懸命だが、天真爛漫さも持っている。
考えようによっては、ナースの仕事はリオナの「天職」と言えるのかもしれない。



残業や夜勤もあり、生活は不規則になりがち。
ましてや人の命を扱うという、特殊な仕事。



当然、医療現場には普通の仕事とは違う種類の、プレッシャーもある。
そのため、身体的にも精神的にも疲れ果てている看護師が
今の日本にはどれだけ大勢いるだろうか?



だが、リオナは体力と精神力にも自信があった。
おっちょこちょいでミスも多く、
先輩看護師をはじめ周りの人たちに迷惑をかけて落ち込むことも多いのだが、
何より、看護師という仕事が大好きだったのだ。



「はい、昌夫くーん。トイレのお時間ですよー。」



「はーい。リオナちゃん、今日もかわゆいね!男でもできたのか?」



「またまたー。昌夫君。そんなませたこと言っちゃってー。」



昌夫は小学校5年生の男の子。
1週間前に学校の階段で友達と遊んでいて、足を滑らせ転落し、大怪我。



階段から落ちて頭こそ強くぶつけなかったのが不幸中の幸い。
それでもあちこち打撲し、足を複雑骨折して手術もした。



骨折が治るのにも1か月近くはかかるだろうけど、
その後退院に向けてリハビリもしないといけない。



退院までまだまだ時間がかかりそうな子だ。



そんな昌夫は5年生にしてはませたことを言って、
いつもリオナを困らせている。



元気いっぱいで明るくて、親しみやすい子供。
友達が多くて小学校生活を思う存分に楽しく過ごしていることは、
少し話しただけで容易に想像がついた。



「ねえねえリオナちゃん。僕明日退院していい?」



「え??!何言ってるの?昌夫君!まだまだ治療が必要よ!
 だってあなた、まだまともに歩けもしないじゃない!」



「嫌だ!僕絶対明日の朝に退院するよ!
 サッカーの試合でゴール決めるってお父さんと約束してるんだもん!」



「・・・そうだったのね・・・サッカーの試合出たいわよね。
 その気持ちは分かるわ。でもね、怪我がまだ治ってないから。
 退院しても試合にはまだ出れないわよ。」



「嫌だ!もうリオナちゃんなんか嫌い!!絶対退院するから!
 男同士の約束は守らなきゃいけないってお父さんが言ってたもん!」



昌夫はこの辺りではけっこう有名な少年サッカークラブの代表選手だった。
サッカーが大好きでほぼ毎日、日が暮れるまで練習。



夜は家の庭で、お父さんとリフティング勝負をよくしていたらしい。
そのお父さんと明日の試合でゴールを決める!と約束をしていたようだ。



泣き叫び続ける昌夫を見て、なんとか試合に出させてあげたいとリオナは思った。
しかし、この大怪我では、まともに歩くことすら今は無理なのだ。



その日の夜。廊下を見渡して誰もいないことを確認した後、
昌夫の病室へこっそり入るリオナ。
昌夫はすでにぐっすりと寝ている。



「昌夫君。治してあげるわ。」



そう言って、昌夫の耳たぶに5秒間キスをするリオナ。



次の日の朝。



「退院だー!わーい!わーい!」



喜ぶ大声が病棟に響き渡った。なんと昌夫が病院の廊下を所せましと走り回っている。
看護師たちが「え?」といった表情で顔を見合わせている。



それもそのはず、昨日までの状態からして、
昌夫は歩けるようになるまでまだまだ最低1か月はかかる大怪我だ。



ましてや元気よく走り回るなんて、できるわけがない。



「これは夢?」看護師たちは、みんなそんな表情で呆然としている。



すぐに担当ドクター「牧田健二」が呼ばれてかけつけた。



「。。。信じられない。。。完全に治ってる。昌夫君、どこか痛いところはない?」



「うん!もう全然痛くないよ!ほら!
 ジャンプしても走っても全然痛くないよ!退院してもいいよね?」



「。。。。。え?。。。う、うん。そうだね。退院してもいいよ。」



「やったーーーー!」



昌夫の母親も病院へ来ていた。



「牧田先生・・・あのー・・・これは・・・
 昌夫の自然治癒力がすごい?ってことでしょうか?」



「お母さん・・・僕も何と言ってよいか・・・そのー・・・
 自然治癒力は確かに人によって強さは違います。
 怪我の治るスピードにも個人差はあります。



 ただ・・・今回の場合は・・・あまりに急に治りすぎている。。。
 前例がないスピードで完治しているので・・・
 医学的には説明ができません。



 ただ、完治しているので、今日のサッカーの試合も出てもらって問題ないかと・・・
 いやー・・・僕自身もまだビックリしている状態なんです。」



「そうですか・・・分かりました。ありがとうございました。」



「念のためですが、1週間後に一度診察に来ていただけますか?
 それと、もしどこかに昌夫君が痛みや違和感を感じるようであれば、
 すぐに診察にお越しください。」



「わかりました。」



「ねえねえ、お母さん!サッカーの試合始まっちゃうよ!
 早くグランドまで送って行ってよ!」



「はいはい。分かりましたよ。」



「あっリオナちゃんだ!リオナちゃん、試合行ってくるねー。バイバイ!」



「気を付けてね。昌夫君。バイバイ。」



そして昌夫はあっという間に退院していった。



一週間後、昌夫が診察に訪れた。やはり完治している。
今回の診察は、前例のない速さで大怪我が完治したため、
牧田先生が不安になって念の為に診ておきたかったようだ。



「あら昌夫君。元気そうね。サッカーの試合には出られたの?」



「うん!僕ね!ゴール決めたんだよ!お父さんとの約束を守れたんだよ!」



「うわー!すごいじゃない!良かったわね!昌夫君!」



「うん!お父さんも喜んでるっぽかったよ!」



「え?っぽかったよ?お父さんは試合見に来てなかったの?」



「見に来てたよ。お空からずっと僕のこと見ててくれるんだって。
 試合も見てたって。これからもずっと見ててくれるんだって。
 お母さんが言ってた。」



「え?・・・あっそうなんだ・・・良かったわね!」



後日、昌夫の母親から聞くところによると、
昌夫の父親は1か月前に心筋梗塞を起こして亡くなっていたらしい。



普段からとても仲の良い友達で、ふざけて遊んでいても
取っ組み合いなんかになったことはないのに・・・



その背景には父の突然死を受け入れられず
昌夫の精神状態は不安定で、半ば自暴自棄になっていた様子。



お友達のほうが落ちなくて本当に良かった。。。
母親はそう言っていた。



父親がまだ生きている頃、夜に庭で一緒にリフティング勝負をしながら、



「次の試合で、僕絶対点とるからね!約束するよ!お父さん!」



「よし!じゃあいっぱい練習しとかないとな!男は約束は守らないとな!」



そういう会話があったようだ。



リオナは昌夫のために、秘密の能力を使って良かったと思った。
しかし同時に、能力を使った相手やその家族の
これからの人生に大きな影響を与えてしまうことに、怖さも感じ始めていた。



1st Operation 「男の約束」完  >>2nd Operationへ続く



1st Operation 「男の約束」 編集後記


今回から始まりました「耳たぶを看護させて」。
ふとした思い付きから見切り発車気味にスタートした今回の小説。
(これは小説なのか?というのは、この際おいておいて・・・)


やるからには絶対おもしろくしていきます。
「男の約束」です。


>>2nd Operation