本編

12th Operation「解散」

「今月はこれで10人目か・・・このくらいにしておくか・・・」



3人はいつものように603号室で打ち合わせをしていた。
今日は5月20日。常磐院長が協力者になってからちょうど1年だ。



この3人の組み合わせはまさに最強だった。



この1年間、月に10人弱。合計103人の患者にリオナはキスをした。
だが、大きな問題は何もなく、ただ淡々とことは進んでいた。



常磐院長が適任とした全国約30名の医師たちが、対象者となる患者を紹介してくれる。
そのもとへ、リオナと徹が2人で契約書を持って説明に行き、治療をしてお金をいただく。



徹は持ち前の頭の回転の速さで、患者さんやその家族から
どんな質問が来ても的確に答えていく。



リオナはほぼキスをするのみの役割だった。
むしろ、徹はリオナが黙ってくれていたほうが楽だった。



1年の区切りとして、看護革命研究会の財政の確認作業を3人はしていた。



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売上 500万×103=5億1500万円



紹介料 50万×103=5150万円
交通費 93万円
宿泊費 81万円
飲食代 158万円
経費合計 5482万円



利益(売上ー経費合計)=4億6018万円
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全国各地へ行く必要があったため、リオナ・徹の大学が休みの土日に動くことが多かった。



遠方の場合には、宿泊もうまく利用して、なるべく近い地域を固めて、
余計な経費がかからないようにも工夫した。



その際の飲食代は経費に入れても良いことに、3人で話し合って決めていた。



飲食代が高額になっているのは、常磐院長が医師を説得する際に、
まれにキャバクラなどの夜のお店を利用したからであった。


これは後になって分かったことであったが、
紹介ビジネスに共感してくる医師の中には、
キャバクラなどの夜のお店が好きという者も多かった。



そういうところにお金を使うのが好きである人間は、
当然、お金はいくらでも欲しいと考えるタイプが多いからであろう。



「常磐院長、そろそろこのお金の使い道を考える時期だと思うのですが。
 さすがにこれ以上ここに置いておくのもどうかと思います。」



「そうだな。約4億6000万。これだけあれば使い方さえ間違えなければ、
 なんらかの看護革命は起こせる。」



現金を全額、看護革命研究会で使っている例の603号室のクローゼットに置いていた3人。
他にも置き場所の選択肢はいろいろあったのだが、
結局ここが一番安全だろうということになっていた。



誰かに見つかるという心配がない。
このマンションが火事にでもならない限りは安全だからだ。



「常磐院長、リオナ、僕はしばらく前から考えるようになったことがあって・・・
 看護師不足を解消するためには、看護師になろう!
 って思える人が増える国にならないといけない。



 だから看護師という仕事はやりがいもあって楽しい仕事だっていうことを
 伝えられる作品を作ったらどうかと思うんだけど・・・」



「ふむ・・・もしその線でいくなら、対象は小学生から高校生くらいまでの
 年齢をターゲットにした・・・マンガ?アニメのようなものを作って話題にして、
 看護師という仕事のイメージ自体を上げようってことか?」



「そうです。それが根本的な看護師不足の解消につなが・・・・」



「ちょっと待って!!!」



突然リオナが大声で徹と常磐院長の話を止めた。



「もう辞めない?こんな茶番。」



「リオナ・・・いきなりどうしたんだ?茶番ってなんのこと?」



「4億や5億程度で看護業界・医療業界の問題を解決できるとは思えない!
 これじゃあ10年続けたとしても50億。50億でも全然変えられないと思うよ。



そのくらい今の日本の看護問題・医療問題は深刻だし、
これからもどんどん深刻化していくんだから。」



「そんな完璧を求めなくてもいいんじゃないかな?
私たち3人でできる範囲内の革命をしていけばいいじゃないか。」



常磐院長はリオナをなだめるかのように静かな口調でささやいた。



「だったら、もうお金なんてとらずに、契約書なんてものも見せずに、
ただ私がたまに病気の人にキスすればそれでいいんじゃない?



それができる範囲内の看護革命にもなるでしょ?
もう私こんな生活限界よ。誰にもばれないようにひっそりと治療してお金もらって・・・
もうコソコソこういうことしたくない!」



徹が明らかに不愉快な表情を浮かべている。



「何を今さら言ってるんだ・・・それなら最初から断れば良かったじゃないか。
もう引くに引けないところまで僕たち3人は来てるんだよ。」



「とにかく私はもう嫌だから!私が嫌って言ったらもう何もできないでしょ!
これからは好きにさせてもらうわ!」



リオナは603号室を飛び出していった。徹と常磐院長はしばらく呆然としていた。
先に口を開いたのは常磐院長だった。



「もうリオナには今後何を言ってもダメだ。能力を使う本人にしか分からない
ジレンマのようなものをずっと抱えていたのかもしれない。
溜め込んでいた目に見えないストレスが爆発したんだろうな。」



「だと思います。リオナがいなくなった今、、、
 看護革命研究会は今日で解散するしかなさそうですね。」



「ちょうど1年か・・・私の50年の人生の中でもこの1年は特別なものだった。
 まるで・・・夢を見ているかのような1年だった・・・」



「僕もです。楽しかったような・・・つらかったような・・・なんだか不思議な1年でした。
 今日からは普通の大学生に戻ります。・・・・・で・・・このお金・・・どうします?・・・
 いっそのこと医療関連の団体にドーンと寄付でもしちゃいますか?」



「そうだな。リオナが去った今、それが一番いいな。
 では私が医療関連で寄付してもよさそうなところを何か所かリストにして用意しておくから。」



看護革命研究会はこうしてあまりにもあっさりと解散を迎えることとなった。



12th Operation「解散」完  Final Operationへ続く



12th Operation「解散」編集後記



次回最終話です。



試しに書いてみた小説。
まさかこんなに長くなるとは、自分でも思ってませんでした。



知り合いに読ませてみたら、
「契約書のくだりは、読んでてしんどいぞ。
 あそこでたぶんほとんどの人読む気なくすぞ。」
と言っていました。



確かにそうかも。。。
でも書いてる本人はというと、あのくだりは相当楽しかったのです。



もはや自己満の世界へ突入。



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