本編

11th Operation「敵か味方か」

「もう1つ嘘をついてくれたね。
 この契約書を書いたのは、あなたの友達なんかじゃない。



 あなた自身だ。 そして・・・この能力を使えるというのも・・・



 あなただ。そうだね?」



リオナと徹は思わず顔を見合わせる。
様々なパターンをシミュレーションしてきたが、このパターンは想定外だった。



セリフの用意が全くない。
徹はリオナに「お前は余計なことを口走るな。」とでも言いたげな表情を浮かべ、
リオナもその雰囲気を感じ取ることができた。



徹が冷静に口を開く。



「なぜそう思われるんですか?」



「簡単なことだよ。契約書の中で、何度も他言しないように書かかれているよね?
 だったら友達があなた達2人にこの契約書を見せて相談なんてするはずがない。



 ここに書かれていることが全部本当で、もしもこういう能力を持っている人間がいたら・・・
 親友にも言わない。家族にも言わないだろう。



 2人でこの場に来ているということは・・・
 この契約書のことを知っているのは、あなた達2人だけだ。」



「・・・全て・・・院長のおっしゃる通りです。嘘を2つもついてしまい申し訳ございませんでした。」



「まあそれはいいよ。嘘をついた気持ちは分からんでもない。
 ・・・で、確認だが・・・ここに書かれていること自体は、全部本当のことなのか?
 3つめの嘘はないだろうね?」



「全て真実です。この子がそういった能力を使えること。
 さらに、この能力を使って僕たちがやろうとしていること。



 逆に、もしこの契約書の内容の中に嘘があったとしても・・・
 僕たち2人には何のメリットもありません・・・



 院長は頭の切れるお方です。ここはご理解いただけますよね?」



「そうだね。まあ契約書の内容が嘘である場合、あなた達にメリットがあるとしたら・・・
 この話に私が乗ったとして、そのことを何者かにばらし、院長の座を降ろす・・・
 というケースが考えられるが、正直私にはそういった敵はいないと思っているし、
 人に恨まれるようなこともしていない。



 それに学生さん2人が何者かに頼まれてそんなことをするとも考えられない。
 あと、院長の座を降ろすのが目的の場合、こんな手の込んだ面倒なことよりも、
 もっと簡単なことがいくらでもあるだろう。だから嘘はないと信じよう。」



「ありがとうございます。で・・・院長はこの契約書を読んで、率直にどう思われましたか?」



「確かに、看護師不足・医師不足は深刻だ。
 今後高齢化が進むにしたがってますますこの問題は深刻化していくだろう。



 閉院を余儀なくされる病院も増えるかもしれない。
 これを解決するために、こういった特殊な能力を使おうとすることはいいことだとは思う。
 国の政策に期待してても、にっちもさっちもいかなくなりそうだからな。」



2人のシミュレーションのパターンA。一番いいパターンに会話が戻りつつあった。



「院長。ぜひこの看護革命に協力願えませんか?」



「ふむ・・・さっき話したように、契約書の内容に嘘はないことは理屈では分かっているが・・・
 矛盾していることを言うようですまないが・・・やっぱりその・・・



 耳たぶにキスをしてその者の病気が治るというのは・・・
 医療に携わる者として・・・信じられん。」



「その気持ちは痛いほど分かります。それはそうです。
 医者の存在価値を否定しているようなものですから。



 信じてもらうには・・・実際に院長に目の前で見てもらうのが一番早いと思います。
 


 誰か身の回りで風邪を引いている方、
 そして院長が言えば絶対に秘密を守れる信頼できる方はいらっしゃいませんか?」



「・・・ピッタリの人間がおる。ついさっきまで会議にいた牧田というドクター。
 会議中ずっとセキをしておったから、あまり無理をするなと注意したところだ。



 加えて、牧田は病院内でも私が信頼を寄せているドクターの1人だ。
 私が絶対に他言するな!と釘をさしておけば、大丈夫なはずだ。」



「今、ここに、その牧田さんを呼ぶことはできますか?」



「・・・分かった。」



院長は少し迷った後、内線電話で牧田医師を呼んだ。
と同時に、契約書は机の中に隠した。



間もなく牧田医師が院長室へ入ってきた。院長がことの経緯を話す。



牧田は驚きの表情を浮かべ、何度も「本当に大丈夫ですか?」と不安そうに院長に聞いている。
その間も牧田のセキは止まらない。



しばらくして・・・話はついたようだ。



「では頼む。」



リオナはうなずき、牧田の耳たぶに5秒間キスをした。沈黙が院長室内を支配する。
1分くらい経っただろうか?



「院長・・・セキが・・・完全に止まりました。熱も下がってます。
 信じられません!こんなに急に治ってしまうなんて!」



「・・・そうか。・・・では牧田君。絶対にここであったことは他言しないようにしてくれたまえ。
 約束だぞ?これからこの2人と話があるから、外してくれ。」



「・・・わ・・・分かりました!絶対に誰にも言いません!・・・失礼します。」



牧田は逃げるように院長室を去って行った。



「これは・・・信じるざるを得んな・・・もう1つ確認したいことがある。
 この契約書を作ったのは君たち2人。
 で、この契約書を見せながらこの紹介ビジネスに勧誘をするのは、私で何人目かね?」



「1人目です。つまりその契約書の存在を知っているのは、
 現段階では、ここにいる3人だけということになります。
 能力のことを知っているのは、牧田さん含めて4人になりましたが。」



「では、、、30万円もらって対象者を紹介するという形の協力ではなく・・・
 君たちの考えている看護革命を共同運営するという形の協力ではどうだろうか?」



リオナは内心驚いていた。徹の作ったシミュレーションの中に、
今の院長のセリフとほぼ同じ内容があったからだ。



「それは・・・つまり・・・院長は私的には紹介料など一切いらない、ということでしょうか?」



「その通り。私は今50歳。何歳まで生きられるか分からんが・・・
 贅沢をしなければ食べていくにはもう一生困ることはもうない。



 それにそういうお小遣い稼ぎをしたいとは全く思わない。
 君たちと一緒に看護革命を、しいては医療革命を起こしたい。



 私は今は病院の院長をしているが、5年前までは平和大学の非常勤講師もしていた。
 今日本が抱えている看護問題に関してはかなり詳しい部類に入る医師だと自負している。」



「え?!じゃあ息子さんと一緒の大学で先生をしていたってことですか?
 息子さんの授業、学生にとっても人気があるんですよ。」



リオナの余計なひと言に徹は不愉快そうな顔をしている。
シミュレーションにないことが会話に出てくると邪魔になるからだ。



「いや、その頃は息子は医局の系列の別の病院に勤務していた。
 私が看護学科を退くときに呼んだのだ。それでだな・・・
 その頃に県の医師会の会長をしていた時期がある。
 それもあって、ドクターの知り合いはこの業界の中でもかなり多いほうだと思う。



 だから、例えばだが・・・
 この契約書を見せて説明する役を私がするということも可能というわけだ。」



「それはとても助かります。そこが一番のネックだったんです。
 僕たち2人は大学に入ったばかりの学生。
 医療関係者の知り合いが皆無だったものですから。」



「ではよろしくな。今後はこの院長室や病院内で会うのはさすがにまずい。
 打ち合わせなど話し合う場合は、今まではどこでしていた?」



「大学から歩いてすぐのマンションに、それ用の部屋を1室借りています。
 普段はそこを使っています。
 話し合う際は、院長もそちらへおいでいただいてよろしいでしょうか?」



一瞬迷う院長。大学付近であれば、マンションに出入りするところを
知り合いに見られる可能性も高いということを考えているのだろう。



「了解だ。喫茶店など公共の場所も避けたい所だからな。そこが今後もいいだろう。
 あともう1つ提案だが・・・契約書に書かれている、
 対象者を見つけた医師を紹介した医師に10万円バックするという部分。



 これは必要なくなると思う。私が何人かに声をかけて
 契約書を見せるから、ここまで広げる必要はないだろう。



 それに、このことを知っている人間は、少ない方がいいのは当然だし、
 なるべく私たち3人の視野の範囲内においておいたほうがいい。」



「・・・そうですね。院長が協力してくれることになった今、この部分は必要なくなりましたね。
 それに・・・自分で書いててなんだかねずみ講っぽくて嫌だったんですよね。」



「そうだな・・・あとは・・・値上げしてもいいかもしれない。
 治療代金を300万円から500万円に。
 紹介者への紹介料を30万円から50万円に。



 より少ない治療で、より多くの看護革命費用を積み立てることを考えるべきだ。
 それに・・・すまん、2人の本名をまだ聞いていなかった。
 協力するとなったわけだから本名を聞いておいても問題ないだろう?」



リオナと徹は名乗るのを忘れていたのを申し訳なさそうに、丁寧に自己紹介をした。
それに合わせるように院長も常磐公平です。とイタズラっぽい顔で自己紹介をした。
2人がもう知っているのを分かっているうえでの皮肉だった。



「で・・・リオナちゃんへの危険性・・・しいてはこの3人への危険性を
 なるべく低く抑えておくためには、少ない人間から多くの代金をいただくべきだ。



 より多くの代金をいただくことは、危険性を高めることにはつながらないからだ。
 病気を一瞬で治せるのであれば、500万なんて安いもんだ!
 と考える人は、世の中には腐るほどいる。



 逆に、多くの治療をしていくことになれば、そのぶん、
 話の分からない人にぶつかる可能性も高くなる。値上げはするべきだ。」



うなずく2人。院長の言うことには説得力がある。強力な味方が加わってとても心強い。



「分かりました院長。治療代金500万円の、紹介料50万円の線でいきましょう。
 今後の流れとして・・・院長自らが治療の対象者となる患者さんへ声をかけるというよりは、、、 



 まずは、院長の知り合いの医師の中から、協力してくれそうな人に、
 紹介ビジネスの契約書を見せつつ院長が説明をして、、、
 という流れで大丈夫そうですか?」



「そうだな。さすがにうちの病院・平和病院内の患者に声をかける勇気は私にはないよ。
 君たち2人も平和大学の学生。
 なるべく関連性のないところから始めていったほうがベターだ。」



「では、代金の部分など、修正部分を変更したものを早急に僕が作りますので。
 出来上がったら連絡しますので、例の603号室へ取りに来てください。」



「了解した。それまでに、声をかける医師の目星をつけておくよ。
 人選びのポイントとしては・・・とにかく柔軟性のある人材・・・
 それから・・・頭の切れる人間だな。



 学校のお勉強ができるタイプではなく社会的な頭の良さが必要となる。
 まあこのへんは、新しい契約書をとりに行くときに声掛けリストとして持っていくから、
 3人でじっくり考えるとするか。一番重要なところだからな。」



「では、今後ともよろしくお願いいたします。遅くても1週間後には連絡します。」



2人は平和病院を後にした。時計を見るとまだ7時30分。
30分しか院長室にはいなかったのだ。
2人にはそれが3時間くらいの出来事に感じられていた。



こうして2人は、ロールプレイングゲームでいうところの、ラストのボスを
レベル10の段階で味方につけることに成功してしまったのだった。



11th Operation「敵か味方か」完  12th Operationへ続く



11th Operation「敵か味方か」編集後記



子供のころ、人気のロールプレイングゲームはラスボスを倒すまで絶対に辞めなかった。
途中で詰まると、ゲーム好きな友達に電話して聞いたり、攻略本を買ったりもした。



あのエネルギーはどこから来ていたんだろう?



大人になった今、あの有名な某ロールプレイングゲームにたまに手を出すことがある。
たいてい3時間くらいで、めんどくさくなって辞めてしまう。



街の人は言う。
「南東のダンジョンの一番奥に、北西の塔に入るためのカギが眠っているという伝説がある。」



僕は思う。
「めんどくさいからやめときます。」


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