本編

10th Operation「ラスボス」

だいたいの方向性は定まった。契約書2枚もできた。
だが、ここから2人は苦戦することになる。



対象者を紹介してもらう医療関係者を誰にすればよいかに悩んでいた。
そうこうしているうちに1週間があっという間に過ぎた。



現実的な線が、2人の友人・知人に話の分かりそうな
医療関係者の知り合いを紹介してもらうことだが、
医療関係者の知り合いがいる友人・知人は、大学1年生の2人には限られている。



「うーん・・・やっぱり常磐院長紹介してもらうしかないんかな?」



リオナの通う平和大学看護学科。
その授業の1つを受け持っている先生が「常磐(とぎわ)」だ。



話の内容がとてもおもしろく、学生の中には
毎週の常磐先生の授業をとても楽しみにしている者も少なくない。



リオナもその1人だった。授業が終わってからは、
学生たちが常磐の前に並び、順番に質問をするのが毎週恒例の風景となっている。



常磐は質問に的確に答えてくれるだけでなく、
たわいもない雑談で学生たちを楽しませてくれている。
リオナも毎週のようにその列に並んでいる1人だ。



そんな常磐先生の父親が、平和病院の院長「常磐公平(とぎわこうへい)」だ。



「常磐先生の授業があるの明日だよ?
 授業終わって誰もいなくなったところを見計らってお願いしてみるわ。



 ええっと・・・なんて言えばいいんだろ・・・・
 院長先生を尊敬していて、一度お会いしてみたいんです・・・
 じゃダメだよね?」



「うん、ダメだね。そんな学生にいちいち会ってるほど院長って暇じゃないでしょ。
 ただ常磐院長は人柄も良くて周りの関係者からは本当に尊敬されてるって話は聞いたことある。



 噂では、他の病院の優秀なドクターが常磐院長のもとで働きたいと言って、
 平和病院へ異動してくることもけっこうあるらしい。



 これを使ったらどうかな?・・・・・つまり・・・
 リオナの親戚のお兄ちゃんが医者をしていることにしよう。
 で、常磐院長の噂を聞いて、話だけでも聞いてみたいと言っている。



 5分でいいから会って話をする時間が欲しいと言っているんですけど、
 常磐院長に話を通してもらえませんか?的な感じで問題ないだろう。」



「そうね。了解。じゃあ明日の授業終わりで言ってみるわ。」



次の日。リオナは常磐の授業の間も、話が全く頭に入ってこない。
緊張していたのだ。授業が終わる。



いつものように先生の前に行列ができると思いきや・・・今日は3人しか並んでいない。
ラッキーだ。その3人が教室を出るのを見計らって、先生に話しかけることにした。



昨日の徹のセリフをそのまま言ってみると・・・
常磐先生はなんとその場で父親である院長に電話をかけてくれた。



明日の7時なら時間がとれるということで、
リオナは「明日の7時で大丈夫です!」と即答してしまった。



「明日の7時、平和病院院長室でアポとれちゃった!準備間に合う?」



「よし!無理矢理でも間に合わせるしかないだろ!じゃあ早速打ち合わせを始めよう。
 まず実際に行くのは、リオナと俺の2人ってことで間違いないね?」



「え?私の親戚のお兄ちゃんで医者やってるはずの人は?
 もしかして徹がその役を演じるってこと?」



「ばか。あんなのは会う口実に過ぎないんだよ。
 そこは院長室に入ってすぐにばれて大丈夫なところだよ。



 最初に丁寧に謝って許してもらえばいいんだよ。
 で、そこまでして院長にお会いしたかったのには理由があって・・・ともっていく。」



「あーそっかー。徹って頭いいね。」



「いや、俺は普通。リオナの頭がちょっと悪いだけだと思うぞ・・・
 で、契約書を見せる。2枚目に作った紹介ビジネスのほうをね。



 で、ここで安全策を1つ入れておこう。



 つまり・・・この契約書を作ったのはリオナの友達で、
 能力を持っているのもその友達ということにしておこう。



 で、その友達から、この考えどう思う?と聞かれたので、
 院長先生のご意見を伺いに来た。ということにしよう。」



「なるほどー・・・いきなり私自身が能力があることを言って、
 契約書を見せて、、、もし院長がこんなことは私のポリシー的に無理だ!



 みたいになった時に、私と徹が最悪、
 院長の権限で大学を退学になるリスクをなくしておく、ってことだね?」



「それもあるけど・・・まあ本人だってことは最初はばれないようにしたほうがいい。
 もし院長が話に乗り気っぽかったら、その時にばらせばいい。



 俺のあくまで予想だけど・・・
 契約書を見て興味を持つか、それともつっぱねられるかは・・・
 フィフティーフィフティーの確率だと思う。」



「とにかく、明日の7時が勝負ってことね。今日は徹夜で打ち合わせする?」



「いや、ちょっと1人で考えたいから・・・リオナは帰っていいよ。
 今から綿密なシミュレーションを考える。



 院長がこう言ってきたらこう言う。みたいなのをじっくり考えたい。
 で、その受け答えをするのは明日はほぼ俺がやることになるから、、、
 リオナはゆっくり寝ておきな。」



「そうだね・・・・徹にまかせたほうが良さそうね・・・」



「しかし・・・ロールプレイングゲームで言えば、
 レベル10くらいでいきなりラストのボス倒しに行く心境だわ。
 院長さえ味方になってくれれば、今後の展開はすごく楽になると思う。」



次の日。5月20日の夜6時半、2人は平和病院の1階ロビーで待ち合わせをしていた。
リオナは緊張していたせいもあったのだろうか。
早めの6時には平和病院へ到着してしまっていた。



1時間後のシミュレーションを自分なりにしておきたかったため、
人でごった返す1階ロビーへはまだ行かず、病院の外のベンチに腰掛ける。



5分後、早くもそのベンチに徹がやってくる。
お互い気持ちは同じようだ。



それから約1時間、リオナが院長役をして徹が考えてきた会話のシミュレーションをする。



6時55分。病院の受付に院長と約束していることを伝えると、
すぐに院長室まで案内をしてもらえた。



院長室へ入り、自己紹介を終えると、
シミュレーション通りすぐに丁寧に謝るリオナと徹。
それに対する常磐院長の反応は予想に反するものだった。



「ほほう。これはおもしろいじゃないか。
 学生さんがそこまでして私に会いに来るということは、
 よほどの理由があってのことだろ?何でも聞くから話してみなさい。」



不愉快な素振り1つ見せず、話を聞こうとしてくれる常磐院長。
ただそれが逆に怖い気もした。シミュレーション通り、リオナが説明を始める。



「実は・・・私の友人がこういう契約書?のようなものを作ってきて、、、
 どう思う?と聞かれたんです。
 私はその子にどう言っていいのか分かりませんでした。



 これは医療に携わる人に見てもらった方がいいと思ったんです。
 プロの意見を聞いた方がいいと。



 で、どうせ見てもらうのであれば、
 周りに尊敬している人も多いと評判の常磐院長の意見を聞いてみたかったので、
 今日こうしてお伺いさせていただきました。これが契約書です。」



契約書に目を通す常磐院長。途中で読むのをやめてしまう可能性もあるとして、
その場合のシミュレーションもしていたが最後まで目を通してくれた。



読んでいる最中、院長の表情は一切変わることはなかった。
読み終わってもしばらくは院長室の天井を見上げながら無言で何か考え事をする院長。



リオナと徹の2人もそれに合わせるかのように黙っている。
最初に口を開いたのは院長だった。



「もう1つ嘘をついてくれたね。
 この契約書を書いたのは、あなたの友達なんかじゃない。



 あなた自身だ。
 そして・・・この能力を使えるというのも・・・



 あなただ。そうだね?」



10th Operation「ラスボス」完  11th Operationへ続く




10th Operation「ラスボス」編集後記



子供の頃、よくやっていたロールプレイングゲーム。
ラスボスを倒した瞬間は嬉しいが寂しさもあった。



もうこれでこのゲームをする時間が減ってしまう。と。



減ってしまう。というのは、今後もレベル上げとかレアアイテム集めなど、
「クリア後のお楽しみ」があるからだ。



その時の自分を今客観的に振り返ってみると、まさに、
定年退職までは一生懸命仕事を頑張っていたのだが、
定年後に道楽としてパチンコ屋に入り浸ってしまうおじいさん。



そんな感じだったと思う。



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